マンションの寿命(耐用年数)に関して

 

耐用年数とマンションの寿命

 

まず、鉄筋コンクリート造建物(RC造)の物理的寿命は117年と算定されている説があります。
※【建築の維持管理】飯塚裕(1979) 鹿島出版

 

ただ、複数の説や実態が交差しておりますので、以下に例を記載していきます。

 

・税務上の耐用年数:47年

・国土交通省の研究による会議結果:100年以上

・日本の住宅平均建て替え年数:70年
(同潤会アパート)

・アメリカの住宅平均建て替え年数:103年

・イギリスの住宅平均建て替え年数:141年

・吉田寮(木造2階建):1913年築(現存)

・三井物産横浜ビル(RC造):1911年築(現存)

・同潤会上野下アパート(RC造):1929年築(2013年に解体)

 

 

上記のように耐用年数は様々であり、税務上耐用年数と国土交通省の研究による会議結果では2倍以上の開きがあります。

有名な築古RC住宅は上記にも記載してある【同潤会アパート】があります。

 

同潤会アパートは戦前・戦後に主に16棟建設されており、【表参道ヒルズ=同潤会アパート】という事はご存知の方も多いかと思います。

 

1929年に建築され、ほとんどメンテナンスが施されなかった【同潤会上野下アパートメント】が84年経っても倒壊していなかった事を鑑みると、既存の分譲マンションが100年以上使用できる説に納得できます。

 

・税務上の耐用年数:47年

・国土交通省の研究による会議結果:100年以上

・日本の住宅平均建て替え年数:70年
(同潤会アパート)

上記3つの定義は下記の通りとなります。

 

税務上のマンションの耐用年数

 

最初の【税務上の耐用年数】ですが、これは税金計算上の耐用年数です。

 

減価償却とは、経年による価値の減少を経費として計上する、会計上の仕組みのことを言います。

 

「マンションを売却して利益が出た」、「賃貸に出して家賃収入を得ている」といった場合は、これらにかかる税金の申告をする必要があります。

そのとき、減価償却を行う必要があり、税務上の耐用年数が必要となります。

 

実態とはかけ離れているのにも関わらず、この指標が日常で一番多く使われます(銀行での担保価格算出等)。

その為、コンクリートは47年程度しか持たないと勘違いをしている方も多くいらっしゃいますが、実際はそれ以上使用できます。

 

 

国土交通省の研究による会議結果

 

次に【国土交通省の研究による会議結果】ですが、これは平成25年に公表された国土交通省のデータに基づくものとなります。

 

色々な観点から専門家が中古住宅の流通に関してを検証しております。
委員会議事録の概要(抜粋)によれば、リフォームを適切に行っている住宅であれば100年でも十分耐えれるという結果になっております。

 

実際、日本最古の全鉄筋コンクリート造建物は1911年築の【三井物産横浜ビル】ですが、未だに現役として活躍しております。

 

マンションは外観部分の鉄筋コンクリート以外に、給水排水管、鉄部、外壁、屋上防水層等色んなものの集合体であり、定期修繕の質や頻度によって違いが生じます。

 

 

日本の住宅平均建て替え年数

 

最後は「実際に取り壊されるまでの平均寿命」になります。

 

同潤会アパートが表参道ヒルズに変わったように、日本では既に建て替えがあります。
ただし、多くは「使えなくなったから取り壊す」という類のものではありません。

 

築30年程で建て替えられる建物もありますが、それは容積率が余っていて建て替えた方が利益がある場合などです。

 

実際に取り壊される多くのケースは、「劣化部分の修繕をするより、建て替えを行ったほうが費用対効果が高い」ケースです。

 

劣化には種類があり、「物理的劣化」、「機能的劣化」、「社会的劣化」の3つに大きく分かれます。

 

物理的劣化とは

 

物理的劣化というのは、物質自体が古く変質して使えなくなる状態を指します。

 

例としては以下になります。

 

①劣化診断を行った結果、防水層や外壁がめくれ、上塗りできる状態ではなく、一度剥がしてから塗る必要がある。

②原因不明の漏水が続き、給水管排水管を更新するする必要がある。

③地震の発生等により、コンクリートのひび割れが多発しており、樹脂等の注入だけでは修繕不可能な場合。

等になります。

 

機能的劣化とは

 

機能的劣化というのは、技術の進歩により、これまでより優れた物が現れ、それと比較して価値が下がった状態を指します。

また、法的規制の変化等によって設備機器などに求められる基準を満たさないケースもこれにあてはまります。

 

例としては、以下になります。

 

①消防法の強化や新耐震設計法の施工などに伴う既存建築物の不適合を是正するため。

②アスベスト混入材料の使用禁止を是正するため。

③給水管に銅管を使用しており赤水の心配があるが、構造上交換が難しい場合。

④補強を施したとしても新耐震基準に達する事が構造上出来ない場合。

等になります。

 

耐震基準に満たないから耐震補強をしたいが、耐震補強をする費用が捻出できずに建て替えを検討するマンションというものも存在します。

ただし、東京都には【マンション耐震化促進事業(助成制度等)】がありますので、大部分はそこから捻出できます。

 

社会的劣化とは

 

社会的劣化というのは、社会的な要求水準や要求内容が変化することによって生じる劣化を指します。

 

例としては以下になります。

 

①高齢者が多く住むマンションであるのにも関わらずバリアフリーとなっていなく、構造上する事が不可能な場合。

②オートロックを設置したいが設計上不可能な場合。

③24時間ゴミ出し集積所のスペースを現状では確保できない場合。

④エントランスに来客用のソファを設置したり、コンシェルジュエリアを設置するスペースがない場合。

等になります。

 

上記等の理由により、建て替えた方の利益が大きい場合には、実際に建て替えが行われております。

この費用対効果も判断が様々であり、容積率、現居住者の年齢、賃借人の数、空室数等によっても変わってきます。

 

 

マンションの寿命は一概に定義できない

 

ここまで、一般的な3つの指標を用いて、「マンションの寿命」について記述しましたが、マンションの寿命は一概には断定できません。

 

マンションの場合、以下のような事がない限り強制的に住めなくなる事はありません。

 

①自然災害での倒壊した場合

②給排水管等の故障を修繕するお金が組合に無い場合

 

後は、組合の総会決議により、寿命を迎えることになります。

ただし、建て替えには区分所有者数の5分の4以上且つ議決権の5分の4以上の賛成が必要なので、居住者の意向によっては決議が困難な場合があります。


いくら劣化が進んでも、今の家に愛着を持つ人が多く住んでいる場合、建て替えはその方達の状況が変わる
まで行われることはありません。

 

 

マンションの寿命と建て替え

 

今回、お話した内容をまとめると、マンションの建て替えは組合員の利益があるか否かによって決定されます。

 

まず、共用部分の修繕は【修繕積立金】から捻出されます。

しかし、故障に対して修繕積立金が足りない場合には、組合員の一時金負担という形で延命する必要があります。
もし、一時金を借入れでまかなえた場合でも、その後には積立金の値上げは免れません。

 

それらの修繕費と建て替え費用を比較した結果、どちらが組合員の大多数に利益があるか否かによって決定します。

 

例外としては建蔽率や容積率に余剰があり、費用負担なしで建て替えができるマンションもありますが、そういった条件のマンションは多くありません。


そして、ご高齢者や小さいお子様がいる家庭にとって、建て替えは精神的にも物理的にも苦痛を伴います。
賃貸に出しておらず、実際に居住している区分所有者が多ければ抵抗は高く、できる限り現状維持を考えると思われます。

 

そのため、多くのマンションの建替決議は、マンションの劣化が進み、修繕費が建て替え費用より高くなる状態になった場合に行われていくものと考えられます。

 

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